記事: 日本酒ペアリングの名店、新宿・AKAKUMA店長に聞く、仕入れと提供のこだわりと日本酒の楽しみ方。

日本酒ペアリングの名店、新宿・AKAKUMA店長に聞く、仕入れと提供のこだわりと日本酒の楽しみ方。
ニューヨークのマンハッタン、コリアンタウンでの飲食店や、アメリカでの日本食店のコンサルなど、20年に渡りアメリカで飲食店経営に携わった赤星慶太さん。現在は東京都新宿で、日本酒バル AKA-KUMA世界初のAIソムリエ「カオリウム」を導入した日本酒バル「AKA-KUMA」と「AKA-KUMA別邸」を経営し、自ら店舗にも立つ。昔から好きなものに魅せられ執心しやすい性格で、ぶどう・ワインを経て赤星さんがたどり着いたのは日本酒。店舗のコンセプトから、仕入れ・提供についてのこだわり、赤星さんが考える日本酒の楽しみ方について聞いた。
ソムリエから日本酒販売への転身と、自身の日本酒に対するイメージの刷新
ー日本酒バル「AKA-KUMA」と「AKA-KUMA別邸」の形に至るまでの、赤星さんのご経歴について教えて下さい。もともと日本酒やお料理の勉強をされていたのでしょうか?
もともとはお酒を飲めるようになる前、果物の葡萄が大好きだったんです。社会に出る前のわたしは、大好きな葡萄から作られるワインに興味を持ち、神戸の専門校「日本ソムリエスクール」の第一期生としてソムリエの勉強をしました。その後、上京して酒販関連の仕事に就きますが、ほどなくしてアメリカで日本酒を販売するという任命を受けたのですが、その時は日本酒には全く興味がなく、当然アメリカで日本酒の魅力を伝える熱量も持ち合わせていませんでした。今のようにリパッケージされたり、若者に向けた日本酒商品が開発される前だったので。
ただ、日本酒を売るために色々な日本酒と接していたこともあり、そんな中で出会った1本が、日本酒に対するわたしの気持ちを一変させてくれたのです。
それは、福島県の「大七酒造」という酒蔵の日本酒でした。人工の乳酸を添加せず、自然の力を活用して手作業で酒母を造る、昔ながらの日本酒の製造方法である「生もと造り」にこだわった酒蔵です。手間がかかるので昭和以降は速醸系といって人工の乳酸を入れた安定感のある製法がメジャーになっていますが、その方法では出せないインパクトに出会い、わたしの日本酒へのイメージが全て覆りました。
自分の中で日本酒に対するイメージが刷新されたことにより、自分もなんとかして人々にそんな意識の変化をもたらしたいという気持ちが芽生え、どうしたらそうできるのか考えるようになりました。ただ日本酒1本を持ってきて、作り方と味の説明をすれば、もちろん無難に「おいしい」とは言ってくれますが、そこに「日本酒を飲んだ」以上の驚きはなく、圧倒的な「おいしい」に到達することは、なかなかできなかったからです。
日本酒の魅力に気づいてもらうきっかけとしての、酸を軸にしたペアリング
そんな時に、味覚と考え方の軸になったのが、ワインの勉強をしていた時から続けてきた「酸」の味への探求でした。それぞれの日本酒に含まれる、それぞれの酸の味に対して、ペアリングさせて合う食材を考えはじめました。例えばこの日本酒にはレモンのクエン酸が合うだろう、といった感じで、酸とのペアリングですね。それを始めたら、アメリカでもとても評判がよく、ほとんどの皆さんが驚いてくださったんです。まずはアメリカで店舗を開きました。日本酒だけの味を提供するよりも、お客さんがペアリングにとにかく感動してくれて、チーズやクレームブリュレなどのお菓子などの欧米の食品も沢山持ち込んで、「これに合う日本酒はあるか?」と言ってきて。日本ではそんな食べ合わせはほとんどありえない時期でしたから、そこで固定概念も取り払われて、感覚も非常に鍛えられました。
わたしの主観ですが、日本のお客さんはとても受動的で、話題になっているお店に行っては提供されたものを食べて、「おいしい」とは言ってくれるけれどリピーターにはならずにそれを繰り返すイメージが強かったのですが、アメリカのお客さんはチャレンジングなことに対する批評や併走の姿勢があって、ダメ出しもされるけれど根強く通ってくれるお客さんがすごく多い印象がありました。それもあって「より良い形にするためにダメ出しも素直に受け入れる」という姿勢が身についた気がします。
その後、2015年にニューヨークから日本に戻り、前身店舗となる「赤星とくまがい」をオープンしました。
より良い形にするために粘り強く提案する共通点を持つ「未来酒店」
ー現在、未来酒店から日本酒を仕入れていただく機会も多いですが、未来酒店との出会いはどういったタイミングだったのでしょうか?酒屋として使い続ける理由などはありますか?
もともとは日本に戻って店舗を開くタイミングで、実店舗に足を運んだことがきっかけでした。日本酒を扱っていらっしゃることもあり、未来酒店の皆さんがわたしの店舗にもいらしてくださったこともあり知り合いましたが、新しい日本酒の情報など、わたしのやっていきたいことも汲んで非常に親身になって教えてくださっていたのが印象的で、この人たちから買いたいなと素直に思えたことがきっかけですね。お酒が好きで、付け焼刃でない知識や、飲食店の傾向もしっかり把握した上で、わたしのやりたいことに寄り添ってくれ、わたしの好奇心がくすぐられる提案をしてくれることが嬉しかったです。
それから、圧倒的に「もっと日本酒を広めたい」というマインドがあるところが自分と同じ気持ちだなと思いました「仕入れた日本酒を売りたい」というのは当たり前のモチベーションなのですが、そこよりも「今日本酒の魅力に気づいていない人にも日本酒の良さを広めたい」というところが、共感できるマインドだと思いました。
先ほど「好奇心がくすぐられる」と言いましたが、何かを好きになるうえでそれは非常に大切なことだと考えています。今、まだ日本酒の魅力に気づいていない方々の好奇心をくすぐることができれば、「日本酒が好き」の入口に立たせられると思っているのですが、それがすごく難しいところなのです。
ーなるほど。お店でペアリングを提供する上で、未来酒店の扱う日本酒に期待することはありますか?お酒を軸にペアリングを組み立てるのか、お料理を軸に合うお酒を探すのかだとどちらなのでしょうか。
わたしの場合は、圧倒的にお酒を軸にお料理を決めていくことが多いです。未来酒店で扱われているお酒は、新しい商品も多く、個性も強い。たとえば川鶴酒造の「讃岐くらうでぃ」というお酒があるのですが、低アルコールで酸っぱくて、いわゆる「日本酒」のイメージからはかなりかけ離れた個性の強いお酒なんです。お酒だけをゆっくり味わうというよりは、ペアリングに向いていると思いました。そこで、我々のお店のカツサンドに合わせたら、この食べ合わせが名物になりました。
そういったお酒の個性を活かす場をつくるのが我々の仕事だと思っているので、幅広く面白いお酒を見つけられる場として未来酒店を使わせてもらっています。
日本古来の醸造酒は、グローバル化の進む現代で、これからの食生活にどのように取り入れられていくのか。
国産のアイデンティティを保ちながらも、製法の発達に伴い多様な個性ある日本酒が生まれる中で、ペアリングは我々に新しい感動と楽しみをもたらし続ける。
【店舗概要】
AKA-KUMA
〒160-0023 東京都新宿西新宿7丁目 15-17 東光ビル 1階
電話番号:03-5937-2485
公式サイト:https://akakuma-sake.com
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