次回も阿部様の日本酒造りへの熱い想いを余すところなくお伝えします。
トピックスでは、お酒のセレクトショップ未来日本酒店で取り扱っているお酒の作り手の方々へのインタビューを通して、お酒の味だけでなくその背後にあるストーリーと想いも皆さまにお届けいたします。
第二回となる今回は、前回に引き続き米どころ新潟の阿部酒造の6代目阿部裕太様にお話しをお伺いします。
ライバルは父親。「阿部酒造」を続けるということ。
-酒造りの際に先代、つまりお父さんを意識されることがありますか?
意識はしますね。
26BYでは僕はあべブランドも男山も両方造っています。父である5代目が男山の酒質設計をしていて、その手伝いを僕はしています。「あべ」シリーズは僕が酒質設計を僕がやっているんです。その中で力作業とかを親父に手伝ってもらっています。
-どのような点にお父様に対する意識を生かしたり差別化したりされますか?
まず、親父の酒と同じ酒を造ろうとは思わないですね。
アルコールは嗜好品だと思っているので、僕の趣味嗜好に合うものを作るほうが絶対上達するなと思います。親父の趣味嗜好と、僕の嗜好がたまたま合わなかったというだけなのですが。
イベント等で親父の酒と自分の酒を出すと、昔から日本酒を飲んでいる人は親父の酒をうまいというんですよ。悔しいですね。普段ワインとかを飲む人は僕のをうまいと飲んでくれるんですけど。いくら酒好きといっても僕の前でおやじのがうまかった言われるとなにくそ!と思います(笑)
同じ会社ですが一番身近なライバルというか。この人を早く超えたいっていうのあります。
-日々刺激をたくさん受けられているのですね。
お父さんも阿部さんと同じようにサラリーマン経験がおありなのですか?
あります。たまたま出身大学も同じ大学・学科で(笑)。
親父は祖父から蔵を継がなくていいって言われていて、広尾の繊維の商社で働いていました。酒造りは農大や他の蔵で修行していたわけでもありません。では、どこから学んだかというと祖父からで。
-杜氏組合などもなかったのですか?
うちは代々、内杜氏というシステムをとっていて、杜氏制を敷いているときから基本的に一番上の杜氏は家の家主なんですよ。
家主が酒を造って経営もみる。それをずっとやっていて、親から子に酒造りを伝えるっていうシステムでうちは来ているんです。
それに則って祖父も親父に教えるんですけど、その時代の人なので1から100までは教えないんですよ。見て覚えろ、自分で学べっていうスタンスなので、祖父が亡くなってやばいってなって。なんで今まであれをやっていたんだろう…って考えてそこから勉強して。
そういう意味では、親父は戻ってきてからは長いんですが、酒造り自体はそこまで長くないんです。それまでは祖父がいたので、良くも悪くも頼れたので、親父は酒造りの知識はなかったんです。そこで言うと独特なシステムをずっと敷いていた蔵だったのでいろいろ大変だったと思います。
-阿部酒造は酒販事業もやっていらっしゃると 伺います
そうすると必ずしも造りだけ100%やってればいいわけでもないということですよね。
そうですね。親父は酒販会社にしようとしていたんですよ。もう造りはいいって。これからは販売だって言ってやっていたんです。
ワインから考える日本酒マーケティング
-ワインを見た時に阿部さんなりに日本酒が取り入れたほうがいいなと思うものって何がありますか?
ブランディング・営業ですかね。
-ブランディングで感銘を受けるところはありますか?
ワインは全体的にブランディングがうまい。
テロワール、どこ産とか何年物が美味しいとか、消費者の購買欲を駆り立てるのがアルコール業界の中でもうまいと思っています。
僕が持った日本酒の最初のイメージって農家さんなんですよ。
ただ物を作ってそこで終わり。売り方も知らないし、そもそも美味しいものを造ってるから自分でPRする必要がないってスタンスの人が多い。そのあたりが日本酒に欠けていてワインの業界から学ばなきゃな、と思うところですかね。ブランディングは営業も付随してきますし、売り方とかも変わりますし。
清酒業界で一番やっているのは獺祭さんだと思うんですよ。あれだけ短期間で量を伸ばしている蔵は他にはない。
質ももちろんあると思いますが、同時にブランディングがしっかりしているから今の地位がある。日本酒業界ってブランディングとかマーケティングみたいな横文字が大嫌いな人もまだまだ多いと思います。
それはそれでいいんですが、学ばなきゃいけないのはその2点になるのかなと思いますね。
-なるほど。ありがとうございます。
マーケティング・ブランディングを考えると、女性という存在ははずせないと思います。造り手も飲み手も女性が増えていますが、女性が業界の中で果たすと期待される役割について、阿部さんが思うところってありますか?
あまり求めないですがお酒だけは飲み続けてほしいです。
例えばデートとかでご飯に行って、「これ飲みたいな」って言われたら飲ませてあげたくなるし「僕も飲もう」ってなる。女性がいるから飲むきっかけになったりするので、女性はターゲットとして間違いなく必要です。
-女性向けの酒質設計をしていく予定はありますか?
女性っていっても色々な方がいます。例えば、にいがた酒の陣で僕なりに考えた女性向けの酒を出した時も賛否両論分かれてますし。
酒質で女性向けっていうのは何となくのイメージはありますが、あんまり性別を分けて味を調えたりするっていうのはないですかね。相対的に見たらっていうのはあるかもしれないですが。
※にいがた酒の陣:毎年4月に新潟県で行われる全国有数規模の日本酒イベント
-見せ方というところでパッケージとかラベルに対するこだわりとかコンセプトありますか?
そこで言うと、さっき言ったワインから学ばなきゃっていう所に帰結します。
ボトルのデザインや形状の見せ方とかが上手なワインから学べるところはあると思います。形を変えてみるとか。720mlじゃなくて750mlにしてみたりとか。そういう所になるのかなあ。
-なるほど。国内においてはワインに近づいていくというか、取り入れるべきところを取り入れて進化していくというのがあると思いますが、海外だと逆にワインと差別化しなければいけないところもあると思います。その点に関して、意識している事はありますか?
国内と海外で戦略はやはり異なります。
当蔵にとって海外で大事にしたいのは平仮名という日本独特の字体です。漢字だと、中国のお酒って思われちゃう。なので国外に出す銘柄はひらがなを入れていきたいっていうのがあります。僕の「あべ」ぶらんどを平仮名にしたのはそれも大きな理由です。
-「あべ」ぶらんどは今後海外にも展開していきますか?
将来的にあれをそのままの味・ラベル・ブランド出すかはわからないですが、将来的にラベルでひらがな使いたいっていうのはありますね。