トピックスでは、お酒のセレクトショップ未来日本酒店で取り扱っているお酒の作り手の方々へのインタビューを通して、お酒の味だけでなくその背後にあるストーリーと想いも皆さまにお届けいたします。
藤井酒造 藤井様のインタビューもいよいよ今回で最終回。最後は、藤井様の海外訪問の経験から、ワイン・日本酒のブランディングについて考えていきます。
日本酒とワインは似ている?
ワイナリーから考える日本酒のブランディング
-藤井さんは先日アメリカカリフォルニア州のナパとフランスのボルドーというそれぞれワインの雄とも言える地域に行かれたようですが、是非そのときのお話しを聞かせてください。
先ずナパって僕が率直に受けた印象で言うと、整備された新しいアミューズメントとか観光の土地って感じだったんです。だってすごく綺麗だし、整備されてて、有名なワイナリー、オーパスワンとか、もう現代アートみたいでした。 一方で、ボルドーはすごい歴史があるというか、京都に行ったみたいな感じなんですよ。
特にサン=テミリオンなんて、4世紀くらいの壁画が寺院が残っていたりとか、そういう土地だったので。建物自体がすごい古い。それを使ってのツーリズムを町全体でやっていることもあって。
ナパが近代的だとすると、ボルドーは本当に、言い過ぎですけど遺跡を見に行くみたいな感じです。
-醸造設備とかも見られたと伺っています。
ナパは見られなかったんですけど、ボルドーは見て、醸造設備でいうとワイナリーにもよりますが意外と近代化されている印象を受けました。
-外側は古いけど、中は新しいということでしょうか。
中っていうか設備ですね、醸造機械というか。日本も同じだと思うんですけど、規模が大きくなるほど、近代化された醸造設備を使ってる印象です。
たとえばボルドーのメドックっていう地方にある五大シャトーの一つである、マルゴーの醸造設備見て来たんですけど、もうすごかったですよ。
-なるほど。これ日本酒にも生かせるな、とか、ここは日本酒の方が進んでるな、とか。そういう発見はありましたか?
共通するところはたくさんある。使っている道具の形状が似ているな、とか。
ただワインと日本酒って発酵過程とか作り方は全く違うので、これいいなってところを日本酒にはそのままは持ってくることはできないかな。コンセプトみたいな部分では、日本酒に置き換えたらこういう風にできるかなっていうのはあるけど、向こうの物をそのまま日本酒に生かせるかっていったらちょっと疑問に思います。
-そこはある意味割り切ってというか、これはワインの見学だぞってことを前提としていかれてるってことしょうか。
そうですね。造りの他にたくさん学ぶことがあるので。
ボルドー地方にいって、1つすごく面白かったのが、自分たちの蔵で瓶詰をしないんですよ。ボルドー全体のワイナリーがひとつの瓶詰工場に樽を送って、瓶詰からラベル貼りをやっちゃうんですよ。
-それに対しては藤井さんにとってどのような印象を受けたのですか?
ポジティブだったり、個性が失われるとかだったり。
両方なんですけど、ボルドーと聞いてワインを思いつかない人は世界にほぼいないと思うんですよ。それはボルドーの統一されたボトルの形からAOCのシールから、そういうところが全て統一化されているからこそできたブランディングかなってところを感じていて。個性は中身で出せるので。
-ボルドー自体が質の高いものというブランドが確立できるということですね。
デザインについてですが、ボトルの形状は地域で統一されてると思うんですけど、ラベルデザインもある程度制約が出てきてしまうんでしょうか?
そこは多分ですけど個々のワイナリーがやるとは思います。
ラベルの中にかかなきゃいけないことって言うのは決まっていて。だからいじるところって言ったら背景の絵とかフォントくらいしかなさそうですけど。
-日本酒も制度的に半分はそういう風になってますが、ワインは必須記載事項とかがビジュアル面でもより明確化されており、容量とか度数とか、みんなほとんど一緒ですよね。
このような「統一化」を日本酒業界に取り入れたほうがいいと思いますか?それとも個性で蔵ごとに変えればいいと思いますか?
どっちがいいとも言い難いですけど、わかりやすさって意味ならビジュアル面でも統一していったほうがいいかと。
-まさにRichie Hawtinのenter.sakeシリーズとかがそうですけど、enter.のガイドラインがあって、蒼空とか新政とかの蔵元のオリジナルラベルとはかなり異なっていて、enter.sakeとしての統一ビジュアルですよね。
ここにロゴが入るからロゴは変わるけどみたいな、プライベートブランドじゃないですけどそっちだと事例はありますね。これを行政単位でもやっていくかどうかということですね。
※enter. Sake:イギリス出身のテクノミュージシャン・DJであるリッチーホゥティンが手掛けるプロジェクト。リッチー自身が日本酒に精通しており、複数の国内の蔵元が関わっている。
これは国レベルでやっちゃいけない。地域レベルだと思いますね。
だからその日本酒の表記などに関しても決まりができますけど、どうしても国レベルでやっちゃうとどうしても他からの参入を拒絶するようにしか見えない。
しかも、今回のは日本国内で造られたものが日本酒でそれ以外は日本酒じゃないって決まりじゃないですか。でも日本国内で造られたからって僕は必ずしも日本酒じゃなくていいんじゃないかって思うんです。
日本酒の定義自体はすごい曖昧。だって、酒造好適米で造ったお酒と、酒造好適米でないお米で作ったお酒と、極端な話削ったら全部大吟醸って同じ名前になっちゃうんですよ。新米で作ろうが古米で造ろうが同じだし。それって僕はすごく駄目だと思ってて、例えば日本酒というものは、酒造好適米を100%使ってそれが国産であるもののみを日本酒と呼ぶ、くらいに絞ってあげると、日本酒という名前のブランドは格段に上がると思う。
超極端な話すると、ブルゴーニュの土地で造ったワインで、ピノ・ノワールで造ったワインとデラウエアで造ったワインに、全部ブルゴーニュのAOCが就いちゃうって変でしょ?
-AOCは国じゃなくて地域で、というお話ですね。
はい。国単位じゃなくて地域単位。もっとAOC自体にももっと細かな規制を付けて行う。それをやらないならやる必要がない。
-面白いのはブルゴーニュとボルドーは区分が違いますよね。ボルドーは産地の観点で言うと、ジロンド県で造らないとボルドーワインを名乗る資格は持てない。一方でブルゴーニュはもっと広域な地域圏に所属する複数の県の特定地域が該当する。
つまり日本の自治体単位で言うと、ボルドーは単一県で、ブルゴーニュは地域圏だから東海とか山陽とかそういう概念の複数産地の連合体と思うんです。
これら踏まえると、藤井さんとしては、広島県だったり、あるいは竹原っていう市だったり、あるいは中国地方だったり、そういう枠組み造っていくとしたらどれが相応しいと思いますか。
それは県だと思いますね。
それこそ新潟は、昔AOCに近いブランディングやってた気がします。味わいの部分ですけど、端麗辛口と言えば新潟みたいな。それを各蔵がバラバラにやってたら多分あんなに広がらなかったと思いますよ。県の酒造組合を挙げて端麗辛口のブランディングをしたからこそイメージが定着したと思います。
-なるほど、非常にためになりました。 本日は藤井さん個人のヒストリーから商品に込められた想い、そして蔵の将来像等多岐に渡るお話をお伺いすることができました。本当にありがとうございました。
藤井様、貴重なお話をありがとうございました。次回の更新からは清水屋酒造の渡辺様にお話しをお伺いします。