
若手蔵人の成長の場!木花之醸造所の初代醸造長の夢とは Vol.2
2020年6月、東京・浅草にどぶろく醸造所「木花之醸造所」が誕生しました。東京都内のどぶろく醸造所としては唯一麹室を併設した本格的な醸造所であるとともに、醸造長は日本酒造りを志す若者が務める、言わばステップアップの場としての面も持っています。
第二弾となる今回は、初代醸造長を務める岡住修兵さんに、どのような思いで木花之醸造所の立ち上げに関わり、卒業後にどのようなビジョンを描いているのかお聞きしました。
第一弾はこちらから
■独立するための第一歩として
元々、醸造長を務めるつもりはなかったと話す岡住さん。自ら代表を務める「稲とアガペ」プロジェクトの計画では、本来2020年は秋田で日本酒のための米作りを行っている予定だったそう。
しかし、農業を開始するタイミングが様々な事情により後ろ倒しになりそうだということで、今年は米作りを断念。木花之醸造所のオーナーから「手伝ってほしい」と頼まれていたこともあり、立ち上げから一緒にやってきたそうです。
来年の2月には独立し、秋田で米作りを始めるため、木花之醸造所の醸造長を務めるのは約8ヶ月間。一般的に見れば短いのかもしれませんが、醸造長を務めたことで自らの醸造所を造ったあとにお酒を買ってくれるような潜在的なファンを獲得することができ、独立のための第一歩としてとても有意義な時間になっているようです。
■次世代育成がうまくいかない業界
市場が縮小傾向にある日本酒業界にとって、世代交代は急務。にもかかわらず、日本酒造りを志す若者が経験を積み、独立するための下地が業界としてまだまだ不十分なんだそう。
そうした背景があり、木花之醸造所は蔵人に必要なスキルや経験を得ることのできる場になるようにという思いから立ち上げられました。独立心のある意欲的な若者が一人前の蔵人になるためのステップアップの場なんですね。
■麹から自分で作りたかった
木花之醸造所の最大の魅力の1つでもある麹室ですが、立ち上げ当初は建設する予定がなかったんだとか。
しかし、岡住さんは「麹から自分で作りたい」という思いを捨てきれず、オーナーに直談判して併設してもらったそう。
なぜ手作りの麹にこだわるのかというと、既製品の麹を使ってしまうとどうしても味の変化を出しづらくなり、味わいの幅が狭まってしまうから。本当に美味しいと思えるものを作りたいなら、できるだけ変数は多い方が良いというのが岡住さんのモットーなんだそうです。
▲木花之醸造所 ハナグモリ
■精米歩合を高めることで米農家にも還元できれば
麹の他にも岡住さんのこだわりが。例えば、「いかに精米せずに美味しい日本酒を造るか」にチャレンジしている背景には、日本酒業界全体が抱える課題があるんです。
日本酒業界というのはかなり特殊で、業界に携わるアクターが誰も儲かっていないと言える状況なんだそう。市場が縮小していることの他にも、規制が厳しく新規参入が難しいことだったり、代替わりに時間がかかり専業で食べていける人が少ないこと、酒米は食米ほど高値がつかないこと、酒販店の取れるマージンが少ないことなど、あらゆる問題が解決されないまま今も残されているそうです。
そのような状況の中で、岡住さんは精米を可能な限りしないことで農家にも利益を還元できるような酒造りをしたいと考えているんだとか。実際、現状では名人と言われている酒米の契約農家でさえかなり厳しい状況にあることは珍しくないそう。
精米をしなければ使用できる部分が多く残るので、酒造りに大量の米を購入する必要がなくなり、酒蔵にとってはメリットは大きいですよね。
具体的には、現在は友人の農家が作っている特許がついていない酒米を市場価格よりも高く購入し、精米をあまりしないことでコストパフォーマンスを高め、米農家がより利益を得られるようにしているのだそう。
しかし、精米をしないと言うのは簡単でも、精米歩合が高いと米がなかなか溶けず、薄辛い味わいになりやすいという欠点も。そこをどのように改善していくかが今後の課題であり、高値で取引されるようなブランド酒に育て上げることが目標だと話していました。
■日本酒業界のために何かしたいと思っていた
様々な課題の中でも特に問題意識を感じているのは、日本酒業界の新規参入障壁について。現在の制度のもとでは、日本酒を製造する免許を新規で取得するのは不可能に近く、新規参入するならば既存の酒蔵を買収するほかないのだそう。
そのような状況を打破すべく、自ら実績を積むことで規制緩和への足がかりになればと話す岡住さん。酒蔵、農家、酒販店の関係者全員がが持続的に経営していけるような状態を目指していきたいと話していました。
■規制緩和が起これば、クラフト日本酒店のようなものも
クラフトビールブームが訪れて久しいですが、もし日本酒にも規制緩和が起これば飲食店の中で日本酒を製造したりすることも可能になるかもしれません。他にも、農家が6次産業の一環として日本酒造りまで事業を拡大できるようになる可能性もあります。
造り手の幅が広がることで、日本酒そのものへの注目度が上がり、いつかはクラフト日本酒ブームのようなものが起こるかもしれません。若い世代の感性や視点を業界に取り込むことで、日本酒業界が少しずつ元気を取り戻していけると素敵ですね!