
一宮酒造 浅野理可様 part1

トピックスでは、お酒のセレクトショップ未来日本酒店で取り扱っているお酒の作り手の方々へのインタビューを通して、お酒の味だけでなくその背後にあるストーリーと想いも皆さまにお届けいたします。
今回は島根県大田市で「石見銀山」を醸す蔵元、一宮酒造の次期蔵元にして女性蔵人として新たな酒造りに取り組む、浅野理可様にお話しを伺います。
第一回の今回は、浅野様がお酒造りを始めたきっかけや、ご自身のこだわりについてお伺いします。
跡継ぎへの道は、迷いなく
-よろしくお願いいたします。
よろしくお願いします。
-まず最初の質問ですが、なぜ浅野さんはお酒を造ろうと思ったのでしょうか。
私の家は代々一宮酒造の社長をやっているのですが、私の代は男兄弟がおらず三姉妹だったので、そのうち誰かが継ぐことにはなると思っていました。私は三姉妹の次女だったのですが、姉も妹もお酒とは違う道を歩んでいて。そんな中私自身は蔵元を継ぐことに違和感は全く無く、東京農業大学に進学し、跡を継ぐことになりました。
-今お酒を造っている中でライバルというか、「この人に負けないように酒を造っている」というものはありますか?
今はお酒の味とかいうよりは、そもそも私自身どういうお酒を造りたいかという芯がまだ曖昧なので、そこをこれから勉強して決めていきたいと思います。
今、農大の後輩とかもそうですけど、同世代で頑張っている蔵は沢山あって、SNSなどを使って色々なことを発信している。それが凄く魅力的で、自分で発信するということが私は苦手なんですけど、今はそういう時代だと思うから、同世代に負けないようにやっていかなきゃいけないというのは凄くあります。
20代の若手の蔵はみんなそういったことが出来ているので、ライバルっていうのも失礼ですけど、私も頑張らなきゃと思います。
-ありがとうございます。次はお父様についてなのですが、杜氏としてはお酒を造ったりは今までされてなかったんですか?
してないですね。蔵には入ったと言っていましたが、お酒を造るためではなくて、経営をしていく上でもお酒造りのことも分かっておかないといけないという思いがあったようです。もう父親は経営一本でやっているので、造りは私が中心になってやっていかなきゃいけないですね。
-先ほどは造りでの目標に関してお伺いしたのですが、今度は経営を含め、自分の代ではこういうことをしていきたいという将来のテーマのようなものはありますか?
今私の蔵は凄く規模の小さいものだと思いますが、それを何倍にも大きくしたいという風には決して考えていません。 小さいからこそ応援したいという方はたくさんいらっしゃいますし、今あるカチカチの状況の中で、忙しくなるとは思うんですが、充実出来るようにしたいなと。凄くざっくりですけどそう思っています。
「地元」とのつながりが大きな助けに

-島根って地域の纏まりなどはどのような状況でしょうか。地域の繋がりを重視するエリアと、個々が独立してそれぞれの哲学で酒造りを行うエリアになんとなくわかれると思うのですが。
島根は地域の纏まりはなくはないと思います。今ちょうど世代交代している方もいて、30代40代の方が多いんですよね。次期社長さんとか。繋がりの深い方たちはそうしたなかで醸造法を交換しながらやっていらっしゃると思います。こういう世界では、あまり自分たちの技術を他社の方に教えたりすることはないだろうと思っていましたけど、全然そんなことはなくてすごく親身になって色々と教えてくださいます。
ありがとうございます。お米のこだわりなども伺いたくて、地域産米であるというこだわりや、酒造好適米の品種も同じ地元でも「このタイプのお米がいい」とか、逆に全ジャンル試してみたいとか、そういうのはありますか?
今主に使っているお米は改良八反流っていう米です。もともと島根県で栽培されていたお米ですが、栽培が難しいことから作られなくなって。そのお米を地元の農家さんとともに平成8年に復活させました。
今は特定名称酒では主にこのお米を使用していて、すごくお米の味わいを感じられるんですよ。私はそのお米がすごく好きなので地元でも栽培してもらっていますし、メインで使っていきたいという気持ちはあります。
でもそれだけじゃなくて、飲むばっかりで作ったことはないのですけど、今まで飲んで「美味しいな」と思ったお酒がこういうお米だった、というのが今までも何度かあったので、本当は県産米にこだわりたいですけど、私がいいなと思ったお米で作ってみたいなというのはあります。
-今は絞るというよりは、広げていきたいということですね。
メインはあったなかで、毎年この一本だけは自分が使ってみたいお米や酵母などを使って造るというのが出来たらいいなと思います。
-今は酒米の仕入れは、完全に一宮酒造契約農家みたいなところからやっているんですか?
改良八反流自体は地元の農家さん作っていただいていて、それは契約農家ですね。
-ありがとうございます。ちょっと話は戻るのですが、造りに関して、農大で勉強されたことと、杜氏さんのスタイルがあるじゃないですか。基本的には杜氏さんの方針がベースなのか、それとも農大で学んだ最先端を軸にしているのか、ご自身としてはどう使い分けているのですか?
農大では教科書上というか、理想の作り方みたいなものはもちろんあります。実際研究室で仕込みとかするんですけど、温度管理もしっかりできるような冷蔵庫があって、温度経過に関しては割りと理想通りに作れていました。
でも実際に蔵に帰ってみたら、まずタンクを冷やすだけでも大変で、温度管理自体が難しい。実際に仕込んでみるのと全然違うなと感じました。現実はすごく壁があるなと感じるので、ただ杜氏のやり方だけでやっていくのではなく、島根の酒蔵さんに「こういう酒が好きだ」って言ったら「こういう酵母使ってみたら」ってアドバイスをくれたりするので、そういった部分も取り入れてやっていきたいなと思っています。
次回は女性蔵人として浅野様が目指す姿に迫ります。